東京地方裁判所 昭和35年(レ)501号 判決 1961年6月23日
控訴人 鈴木栄助
被控訴人 阿部清吉
主文
原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
被控訴人は控訴人に対し東京都武蔵野市西窪三七九番地、家屋番号三八六番の六、木造瓦葺平家建住家一棟、建坪一一坪を明渡し、一八、九三〇円並びに昭和三四年一〇月二〇日から右明渡済まで一ケ月八九五円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び立証は、当審において次のとおり陳述し、証拠の提出、援用、認否をしたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
控訴代理人は、
一、本件建物につき被控訴人のした増改築の部分、範囲は、
(1) 六畳間の南側に続けて南側の表通りに面して建て出した間口約二間、奥行約一間の板の間、
(2) 右(1) の西側に続いて設けた約三尺平方の物置、
(3) 従前の台所を板の間に改造し、これに続けて東側の小路に面して増築した巾約三尺、長さ約九尺の台所状の部分、
(4) 右(3) の南側に続き右小路に面して取付けた巾三尺、長さ約二間の庇、
(5) 西側の四畳半の間に接続し、西側の外壁に雨戸を利用して設置した巾約三尺、長さ約一間の物置、
であつてその位置、規模は原審検証調書添付図面のとおりであり、何れも増築部分の屋根はトタン葺、本屋とは釘等で打ち付けて接続してある。
二、(一) 右増改築は、社会通念上、賃借人に許容される賃借物の保存行為の範囲を超え、その善良なる管理者としての目的物保管義務に違背し、契約当事者間の信頼を破壊する行為であつて、賃貸人においてかゝる義務違背を理由に賃貸借契約を解除するに当つては、それに先立ち原状回復を催告する必要はないものである。債務者が賃料不払等契約の履行を怠つた場合に履行の催告を要するのと異り、本件では、被控訴人の行為が契約上の信頼関係を破る程度に達しているのであるから、かゝる場合控訴人が賃貸借関係を継続し難いものとして直ちに契約を解除し得るのは当然であつて、仮に催告し原状に回復せしめ得たとしても、これによつて以前の義務違反の事実が払拭され、一度破壊された信頼関係が回復すると考えることは社会通念に反するものである。賃借権の無断譲渡、転貸を理由とする契約解除の場合に催告を必要としないのもかゝる考えに出ているものであつて、本件のような保管義務違反による契約解除の場合との間に差等を見出し難い。
(二) 仮に然らずとするも、被控訴人は、本訴において、原判決事実摘示のとおり、これら増築は僅かなもので、建物の原形を毀損せず、容易に原形に復し得、かえつて住宅としての使用価値を増したもので、当事者間の信頼関係を破壊するものではなく、又、増築につき賃貸人の承諾を得ている旨主張し、本件増改築を義務違反とは認めていないので、かゝる考えの被控訴人に催告してもこれに応じて原状回復をするとは考えられず、催告の実益はないことが明らかであつて、かゝる場合形式的な催告の必要はないものである。
(三) 仮に催告を要するものとしても、控訴人のした昭和三四年一〇月一二日の解除の意思表示(甲第二号証の一)が何らの効果を生じないものとはいえない。一定の期間を定めての催告を必要とするとの考えは、賃借人が義務違背を指摘されてその非を悟り遅滞なく相当期間内に原状に復すれば信頼関係は維持されるとの見解に出ているのであつて、催告は相当期間内に原状回復の余裕を与え、解除の効力の発生を猶予する意味であるから、催告期間を定めない解除の意思表示でも、到達後相当期間経過後に義務違反の状態が存続する限り、契約は解除されるものと解すべきである。控訴人のした右意思表示も、賃借人の非を指摘しての解除の意思表示であり、被控訴人が通知到達後相当期間内に原状に復すれば或は宥恕され得るとしても、事実は、被控訴人は全く反省せず訴訟上その正当性を主張し、少くも原審の検証当時までそのまゝ義務違反の状態を継続しているのであるから、本件賃貸借は解除されたものというべきである。
三、控訴人が本件増改築につき承諾を与えたことは否認する。控訴人は、昭和三一、二年頃本件建物を見に行つたことはなく、昭和三三年九月頃被控訴人から増築につき承諾を求める旨の書面を受け取つたこともない。控訴人は、昭和三四年六月頃近隣の居住者に知らされて本件建物を見に行き、始めて増改築の事実を知つたのである。
四、賃料につき、被控訴人のした供託は、事前に適法な提供がないので、弁済の効力を生じないものである。控訴代理人は賃料の受領を拒絶したことはないから、被控訴人において現実に提供をなすことを要するところ、控訴代理人が催告期間中常に在宅するということは考えられないのであるから、被控訴人はその不在のときを考え訪問する時間を予め連絡するか、在否を確めてから来訪する等直接控訴代理人に面接し現実の提供をなし得るよう手段を尽すべきであつて、それをせずに漫然来訪して偶々控訴代理人が不在であつたとしても、同代理人の故意又は過失によるものではなく、被控訴人が適法な提供をしたものとはいゝ得ない。又、被控訴人は、控訴代理人を訪ねたが不在で家人から帰宅時間を教えられ、再度の訪問を約したのであるから、その時間に再度来訪するか、それが不可能ならば金員を送付すれば足るのであつて、直ちに供託に及ぶ必要はない。更に、控訴代理人は賃料の受領を拒絶していたのではないから、被控訴人は、控訴人が現実に供託金額を受領し得るように、弁済供託後遅滞なく供託書を控訴人又は代理人に送付又は引渡すべき義務があり、供託書の交付がない限り、控訴人において現実に供託金の払戻を受けられないので、供託は弁済としての効力を生じないものというべきである。控訴人は現在まで本件の供託書の交付を受けていないのである。
と述べ、
立証として、当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第四号証の成立は認めるが、現実に書いたのは控訴人の息子であると述べた。
被控訴代理人は、
一、被控訴人のした本件建物増改築の部分、範囲が右控訴人主張一記載のとおりであることを認める。
(1)の板の間は昭和三三年八月頃建て出したもの、
(2)の物置は昭和三二年頃従前の鶏小屋を修築し、炭小屋として使用しているもの、
(3)の台所は、昭和二七、八年頃新しく設けたもので、その際従前の台所の土間の部分を板張りにし、洗場を取り外し湯殿に移している。
(4)の部分は昭和三三年中に取付けたもの、
(5)の物置は昭和二二年三月頃本家の四畳半の西側に取付けて新設したもので、この部分の本件家屋の外廻りは従前のまゝで、家屋自体に変改を加えていない。
右増改築はいずれも容易に取りはずして原状に回復し得るものであるので賃貸借における当事者間の信頼関係を損うようなものではない。
二、右増改築については控訴人の明示又は黙示の承諾を得ているのである。就中、右(3) 及び(5) の部分の増築については、控訴人は昭和三二年頃本件建物に来て、外部から右部分の状況を見たのに異議を述べなかつたのであり、(1) の部分については被控訴人の昭和三三年九月一日付書簡(乙第三号証)で控訴人の了解を得たのである。
と述べ、
立証として乙第四号証を提出し、当審における被控訴本人尋問の結果を援用した。
理由
控訴人がその所有の本件建物を昭和二六年一月一日以降被控訴人に対し、賃貸人の承諾なく目的物を改造しないこととの約定で賃貸し、昭和三〇年頃以降賃料を一ケ月一、〇〇〇円と定めていたこと、被控訴人が控訴人主張一記載の各増改築をしたので、控訴人は、昭和三四年一〇月一二日到達の書面で被控訴人に対し、右増改築が契約違背であるので右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
原審における検証の結果、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果によれば、右増改築の部分はいずれも本来の建物の部分の外壁等を利用し、これにぬき、たるきがけ等を釘で打ちつけて接続しトタンで屋根を葺いて設けたものであり、(5) の物置は、昭和二二、三年頃四畳半の間の西側の出窓を利用しその雨戸を物置の外壁に使用して作つたもの(3) の台所の建増は、昭和二七、八年頃従前の土間と洗場を板張にし、流しを湯殿に移し(水道は旧洗場から引いている)、勝手口の扉と洗場前の壁巾一尺余とを撤去し、三尺外側に柱二本を立てて、旧台所に続く板張りの床約四分の三坪を新設し、その外側に約三尺の扉をつけて勝手口とし、爾余の部分を板張の壁としたもの、(2) の物置は、昭和三二年頃もとの鶏小屋を修理し、柱を立て、上にけたを打ち金網を張り戸をつけて炭入れとしたもの、(1) の六畳間南側の板張りの部分は、昭和三二年八月末頃、ぬれ縁を撤去し、コンクリート土間の上に高さ約四寸に板を張つて床とし、ベニヤ板の天井を張り外壁は板張りとし、南側に腰高窓を設け、六畳間のガラス戸及び雨戸を開放してこれと往来できるようにし、居間の一部として使用しているもの、であることが認められる。
右事実によれば、本件の増改築は、主として、旧来の建物の外側に新たな構造物を付加したものであり、前記(1) (3) に記載のように相当大きな構造物を多数の釘等で本来の建物部分に接続せしめるにおいては、釘を打つことにより木材に相当の損傷を生ずることを免れないであろうし、工事後も相当の重量を旧来の建物に加えることになるので、建物所有者になにらの損害を生ずる恐れがないとは断言し難いところであり、またこの部分を設置するについては旧来の建物の構造に変改を加えたところもあるので、原状回復が仮に絶対に不可能とはいえないにしても、極めて容易であるとは認められない(弁論の趣旨に照し右各増改築をした頃から本訴提起に至るまでの間に被控訴人においてこれを再び原状に復する意思があつたとも認められない)。そして仮にこれが結果的に住居の使用上の便宜と家屋の客観的価値を増大するものであるとしても、増築部分の所有権の帰属、工事費用の負担等につき賃貸人との間に紛争を生ずるおそれもなく、かつ家屋の保存に悪影響を及ぼすおそれがないといえない限り、すべて賃貸人の合理的意思に適合するとは限らないのである。即ち家屋の賃貸借契約に改修を許容する等別段の定のないときでも、家屋の保存上有益でありこれにより賃貸人との間に前記のような紛争を生ずるおそれのないような小修繕又は小さな物置の設置等については賃貸人は賃貸借契約の解除原因として賃借人の不信義性を問うに当らないけれども、そうでないものは社会通念上賃貸人において忍受し得ないものとして賃貸借契約の信義に反するものと解するのが相当である。
ところで、右検証及び本人尋問の結果によれば、六畳、四畳半各室の天井、台所の柱等が或程度腐蝕していたことが認められるが、そのために前記(1) (3) のような増築が必要であつたとは考えられないのでこのような程度に及ぶ増築は賃貸人の忍受すべき限りでなく、もとより保存行為の範囲を超えているものと認むべきである。
してみれば賃借人がこのような増改築を賃貸人に無断で実施したとすれば、賃借物を善良な管理者の注意をもつて保管する義務に違背し、賃貸借契約上の信頼関係を損い、賃貸借関係の継続を困難にする行為であることを免れず、賃貸人においてこれを理由に賃貸借を解除し得るものというべきである。
しかるに本件増改築につき、被控訴人が事前に控訴人の承諾を得たことを認むべき証拠はない。もつとも、被控訴人は、当審での同本人尋問の結果中において、昭和三二年頃控訴人が本件建物に来、前掲(3) の台所の増築状況を目撃しながら異議を述べなかつた旨供述するが、原審及び当審における控訴本人尋問の結果に照し措信し難い。この点に関し、成立に争いのない乙第四号証は、右控訴本人尋問の結果に対比し、控訴人自身が本件建物に赴き亦は本件建物の現状を知つたことの証拠とするに足りないものである。又、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果並びにこれにより成立の真正を認められる乙第三号証成立に争いのない乙第一号証の一、二よれば、昭和三三年九月一日、被控訴人は、控訴人に対し昭和三二年一月ないし七月分の賃料合計七、〇〇〇円を送金するに際し、「家屋六畳の間の前にあるコンクリートの部分にポーチを建てたから承認して欲しい。古材を集めて建てたもので、本家にはタルキ掛を釘で止めた」旨の記載のある乙第三号証と同文の書簡と図面とを同封して送付したことが認められるので、控訴人において右書簡を読んだものと推定すべきであつて、これに反する原審及び当審における控訴本人尋問の結果は信用し難いが、右に添付したとする図面の内容はどのような増築を表示したのか証拠上明らかでなくポーチを建てたとの記載のみでは、いかなる部位範囲にいかなる構造形状の物を構築したものかを認識させ難いこと勿論であるので、控訴人において、これに対し直ちに諾否の回答をしなかつたからといつて(1) の増改築を承認したとか又はこれを暗默裡に事後承諾を与える意思を有していたとの事実を認めるに足りない。
そして右控訴本人尋問の結果によれば、控訴人は、被控訴人から賃料の郵送を受けていて、一〇数年間本件建物に臨んだことはなかつたが、昭和三四年八月頃、本件建物の近隣に住む山岡某から前記増改築の事実を知らされ、直ちに本件建物に赴いてその状況を見、賃料の延滞も当時相当額に上つていたので、本件控訴代理人石川弁護士に契約解除とこれに伴う明渡訴訟提起を依頼したことが認められるのである。
従つて、控訴人が被控訴人に対し本件増改築について承諾を与えた事実を認めるに足りないので、控訴人はこれを理由に本件賃貸借を解除し得べきところ、このように賃借人の目的物の保管義務違背による背信行為を理由に賃貸借を解除する場合においては、解除権の行使に先立ち原状回復を催告し、賃借人がこれに応じて増築部分を収去したとしても、一旦損われた契約上の信頼関係が当然に回復するものとは考えられないから、右のような催告は必要でないものと解すべきである。
以上の次第で、控訴人の前記昭和三四年一〇月一二日到達の書面による無断増改築を理由とする賃貸借契約解除の意思表示により本件建物に対する賃貸借は終了し、被控訴人はこれを控訴人に明け渡すべき義務があるものである。次に賃料の請求について検討する。本件建物に対する賃料の地代家賃統制令による統制額が昭和三三年一月ないし三月分につき一ケ月九四〇円、同年四月以降の分につき一ケ月八九五円の割合であることは、原審で提出した答弁書の記載等弁論の趣旨に照し、被控訴人において明らかに争わないものと認めるべきであり、被控訴人が昭和三三年一月分以降昭和三四年九月分までの賃料を支払わず、控訴人が被控訴人に昭和三四年一〇月一二日到達した書面をもつて、約定賃料額の範囲内である右統制額によつて算定した右期間の賃料である一八、九三〇円を到達後七日以内に支払うべきことを催告したこと、被控訴人が同一〇月二三日右一八、九三〇円を控訴人に対する弁済のため供託したことは当事者間に争がない。
そこで右供託をなすに至つた経緯についてみるに、成立に争いのない甲第二号証の一によれば、右催告は、本訴の控訴代理人石川弁護士が控訴人を代理し、右金額を右期間内に同代理人宛支払うよう告げたものと認められるのであるが、原審における被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人は、右催告到達後催告期間内である同年一〇月一七日午前八時頃、予め訪問の旨を連絡したり相手の都合を聞くことなく、現金三〇、〇〇〇円を所持し、右催告にかかる賃料を弁済するため平塚市の同弁護士宅を訪れ、同弁護士が不在であつたのでその家人に右催告書を示し金を支払う旨述べたが、家人は、同弁護士が留守でわからない旨並びに同弁護士は午後五時頃帰宅する筈である旨告げ、且つ同人の出先に電話で問合わせようとしたが連絡できなかつたので、被控訴人は、同弁護士に面接し金銭を呈示することなしに同家を辞し、直ちに同日午前中横浜法務局大磯出張所内の司法書士に右金額を預けその供託を依頼して帰つたところ、司法書士が手続を失念し、ようやく同月二三日に至つて供託に及んだことが認められる。
ところで一般には、債務者が弁済をなさんとする期日において、弁済の準備をして債権者又はその代理人の住所に赴いた場合に、債権者又はその代理人が不在であつてこれに対し弁済の目的物を呈示し得ないときは、例えそれが一時の不在であつても、債権者が弁済を受領すること能わざるものとして、債務者は直ちにこれを供託し債務を免れることができるものと解されるのである。しかしながら更に具体的事案に即して供託の要件を判断すべきである。本件において前記のように二年に近い長期に亘る賃料が遅滞となつたので、その支払が催告され、弁済の期日として特定の日時が指定されていない場合には、債権者に受領を拒絶する意思が窺われない限り、債務者は、できる限り債権者に受領を可能ならしめる方法で現実又は口頭の提供をするように努めることが信義則上要求されるものというべきである。そしてこのように弁済期(原審での控訴本人尋問の結果によれば本件賃料は毎月末日に支払う約束であつたことが認められ、これに反する原審での被控訴本人尋問の結果は措信し難い。)を徒過した長期の賃料を七日以内に支払うよう催告した場合に、控訴代理人にとつて、控訴人から右催告期間内に確実にその支払がなされることを予期しなくても無理からぬところであり、まして右期間内にいつこれを持参するか予測し難いことであるので、同代理人において右催告期間内引続き在宅しない場合に留守中になされる弁済提供に対し格別の配慮を払わなかつたことを非難するよりは、むしろ被控訴人側において弁済が円滑になされるよう意を用いるべきであつたのである。即ち前記のように被控訴人は控訴代理人の帰宅時間を告げられ、且つ催告期間満了までにはあと二日の余裕があつたのであるから、後に再度同代理人方に赴くことは容易であつたと見るべきであり、そうでないようにするには予め口頭の提供をして弁済の意思あることを告げるか又は郵送すればことは足りたわけである。しかるにこの措置に出ず不在であつた一事により直ちに供託の手続に着手し、しかも催告期間経過後に供託したことは、債務者として信義に欠けるところなしとしない。
してみれば被控訴人として信義則上弁済のため債務者のなすべき行為をしながら、これを受領せしめ得なかつたものとはいい得ないので、控訴代理人が弁済を受領すること能わざる場合には当らないものというべく、もとより控訴代理人において弁済の受領を拒む態度を示したような形跡はないので、結局前記供託は、その要件を充足せず、債務消滅の効果を生じないものといわなくてはならない。
よつて被控訴人は控訴人に対し右一八、九三〇円を支払うべき義務があるものである。
以上の次第で、本訴請求中、控訴人が被控訴人に対し本件建物の明渡、右一八、九三〇円の賃料の支払並びに賃貸借契約解除後の昭和三四年一〇月二〇日以降右明渡済まで前記統制資料額と同額であつて適正賃料相当額と推定すべき一ケ月八九五円の割合による損害金の支払を求める部分は正当であつて、原判決中これを排斥した部分は取消しを免れない。よつて本件控訴を理由ありと認め、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西川美数 佐藤恒雄 野田宏)